Culture

Even The Nights Are Better

九月の夜、隅田川にかかる新大橋を渡る。川面に映る街灯の明かりが水に揺らめく。湿気を含んだ風は夏の名残をわずかに感じさせながらも、秋の訪れを告げるようにほんの少しだけ涼しげに頬を撫でてゆく。東京の喧騒が少しだけ和らぎ、まるで時間がゆっくりと流れ始めたかのようだ。

そんな素敵な夜は、Air Supplyの甘くメロディアスな旋律を聴きたくなる。

「Even The Nights Are Better」(邦題:「さよならロンリー・ラブ」)は、1982年にリリースされたアルバム『Now and Forever』に収録されている彼らの代表的なバラードだ。Russell Hitchcockの柔らかなハイトーンボイスと、Graham Russellの卓越したソングライティングが見事に融合し、リスナーに深い感動を与える。私が生まれたのは90年代なので当時のことは知らないが、私より30歳ほど年上の上司にとっては青春の思い出の曲だったそうだ。というのも、カラオケに行った際に歌ったところ、なぜ知っているのかと大層驚かれたのである。

この曲が表現するのは、失恋や孤独から立ち直り、愛を再び手に入れた主人公の心情だ。「ヤマアラシのジレンマ」という比喩で定式化されているように、青春時代は、友達や恋人との距離感に悩み、近づけば傷つけてしまうのではないかと恐れ、離れれば孤独を感じてしまうものだ。だが、今や自分と同じように過去に孤独を味わった人と巡り会った。そうして過去の孤独や痛みを分かち合う中で愛を育み、共に闇を照らしながら歩むことを知る。愛に救われる瞬間の喜びや、愛がもたらす変化が、「夜がこんなに素晴らしく感じられるのは、君がそばにいるから」というサビの歌詞に結晶化される。

Even the nights are better
Now that we’re here together
Even the nights are better
Since I found you, oh

Even the days are brighter
When someone you love’s beside you
Even the nights are better
Since I found you

思えば、私にとっての中高生時代は黒歴史であった。脳裏をよぎるだけでモヤモヤとした思いに1日中支配されてしまう。折り合いをつけていかないといけないのだろうなとは思いながらも、未だにそのほとんどの部分は記憶の底に封印したまま誰にも語っていない。混ざってしまうことを恐れて浚渫さえせぬまま、ヘドロのように沈殿してしまった。

そんな私にさえ、青春時代の孤独や葛藤を表現した作品は、痛々しくも美しいものに見えてしまう。人が文学や音楽といった創作物に感動する理由の一つは、それに触れることによって、自分と似た思いをした人がいると知り、救われた気分になるからだろう。

もしかすると、愛もそうなのかもしれない。過去の痛みすら分かち合うことができる誰かに出会うことができたとすれば、それを幸せと呼ぶのだろう。